おたる文学散歩 第26話

公開日 2020年10月22日

更新日 2021年01月14日

第26話  小坂秀雄と文学館(広報おたる平成21年5月号掲載)

   

  市立小樽文学館では現在、「トポス(場)の思想と創造~築家・小坂秀雄(こさかひでお)と小樽文学館」と題する企画展を行っています。小坂秀雄(元郵政省建築部長)は、市立小樽文学館と美術館が入っている小樽市分庁舎(旧郵政省小樽地方貯金局)の設計を手掛けた人物。この企画展ではその業績を紹介するとともに、明治・大正期の建築物が立ち並ぶ旧銀行街において見逃されがちなこの建物の歴史的意義、またすぐれた現代性を見直そうと、原図や模型などを中心に紹介していきます。

 

 小坂秀雄は明治45年、東京日比谷公園内のレストラン「松本楼(まつもとろう)」に生まれました。東京帝国大学建築科を卒業後、建築事務所を経て逓信(ていしん)省営繕課に入省。日本の公共建築を率いていた逓信(郵政)建築の第一人者、吉田鉄郎(よしだてつろう)(東京中央郵便局設計)や山田守(やまだまもる)に傾倒してとのことといわれています。

 

 関東大震災を機に日本では、逓信省が主導する耐震・耐火の鉄筋コンクリート造建築が、レンガ造りやルネサンス様式の重厚な建築に代わり本格的な近代建築として根付いていきます。これらの建築に共通した三つの特徴は、合理的、機能的、そしてインターナショナル(シンプルな国際様式)。吉田鉄郎や山田守の後継者と目された小坂秀雄もこの三つの理念の継承者でした。

 

 小坂秀雄は、建築と絵画・彫刻との違いを次のように述べています。「(公共建築は)大多数の社会人と常に触れ合うものである以上、それらの人々に喜びと安らぎを与えるものでなければならない。このようにきわめて社会性の強い建築を、狭く閉じられた他のサロン的造形芸術と同一に考えようとする建築における作家主義は、当然機能主義に対立するものであり、とうてい我々によって肯定されるものではない」。こうした揺るぎない信念を持つ仕事ぶりとそのおおらかな人柄は、小坂秀雄の下で働いた人々に強い印象を残しています。

 

 その後昭和25年には東京逓信病院高等看護学院の設計により日本建築学会賞を受賞。その翌々年の昭和27年に完成したのが小樽地方貯金局です。ここに勤めながら創作を始め、後に国際的な版画家となった一原有徳氏は、新築された庁舎の印象をこう語っています。「当時東京でも見られなかった階段壁面の総ガラス、玄関ロビーのとり方、外壁のジグザグ階段と、その上部に今は取りはらわれた英字はモダンであった。一部屋の茶系のほかは白い壁を主にグレーのほかは使わない色彩と線の単純さ(中略)こまかいところまで小坂建築の発想が見られ、小樽では第一級の現代建築と思う」。

 

 この建物は小坂秀雄の戦後初のRC造(鉄筋コンクリート)建築であり、その後の郵政建築、ひいては日本の公共建築の基本となっています。小坂秀雄の建築は堅固で機能的でありながら、開放的で伸びやかな空間をつくりあげていることが特徴。市分庁舎の建物は、その特徴を十分に生かしながら、地域に開かれた文化の核として再生させていかなければならないものです。この機会にぜひ企画展と合わせてこの貴重な建物をご覧ください。

  

小坂秀雄
 
小樽地方貯金局(現分庁舎)の事務室の様子
 
小樽地方貯金局の1/1000の模型
 

今回の企画展では、北海道職業能力開発大学校建築科の坪田丈嗣さん、大岡慎一朗さんが卒業研究で作成した小樽地方貯金局(現分庁舎)の1/100の模型を展示します。創建時の青焼き図面を詳細に調査し再現したものです。

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