公開日 2020年10月22日
更新日 2021年01月14日
第27話 ちまちまの文豪・偉人たち(広報おたる平成21年10月号掲載)
市立小樽文学館では、11月7日から企画展「ちまちま小樽文壇史+偉人物語」を開催します。これは、題名のとおり文豪や偉人をモチーフに、札幌在住のイラストレーター高山美香(たかやまみか)氏が制作した小さな粘土人形を展示するもの。昨年開催した「小樽ちまちま文豪展」が大変好評だったことから、これに続く企画展として今年も行うことになりました。
昨年の「小樽ちまちま文豪展」では、国内外の文豪や偉人の粘土人形75体を展示。その中には、小樽ゆかりの作家である石川啄木、小林多喜二、伊藤整、岡田三郎、並木凡平、左川ちか、小熊秀雄も含まれていました。人形は、"ちまちま"というだけあって、どれも高さ10センチメートル前後。手のひらに乗るほどの大きさですが、非常に細密で、表情豊かに作られています。
高山氏は人形を制作するに当たり、まずその文豪たちの著作、伝記、研究書など20〜30冊を読み込みます。そうした準備に多くの時間をかける一方で、人形制作は集中してわずか1〜2日で仕上げてしまうそうです。調べた内容は、彼らの人間性を伝える解説板にも活用。文豪たちの変わった癖や、あきれるような逸話も紹介され、思わず吹き出してしまうほど愉快な内容に仕上がっていました。それらは、人物像の確かな把握に基づいているため、むしろ豊かな人間的魅力として伝わってくるのです。
さらに興味深いのは、人形の背景などに置かれた小道具が、すべて事実に基づいて忠実に再現されているということ。例えば、昼寝をする石川啄木が枕にする本は、借金をして購入したという記録が実存するもので、手元に置かれているたばこは愛用した銘柄のものです。また、小林多喜二が手にしている手紙の下書きや伊藤整の指先にある小さなメモも、書かれた文字をすべて読むことができ、そのこだわりには目を見張るものがあります。解説や小道具が、文豪・偉人たちの人間性をより立体的に伝える役割を果たし、観覧者の目を楽しませていました。
この「小樽ちまちま文豪展」に寄せられた反響の多くが、「教科書に出ている偉人の写真より、高山さんの人形の方が印象に残っている」「表情豊かな人形を見て、久しぶりに声を上げて笑った」など、この企画展を楽しんだ、という内容のものでした。さらには、口コミやインターネットを通じてその魅力が広まっていったようです。
今回の「ちまちま小樽文壇史+偉人物語」では、新作を含め約100体もの人形を展示。モデルになった文豪に関する文学館所蔵の資料も併せて展示し、より立体的な構成とします。企画展は平成22年1月30日までですが、より多くの方に楽しんでいただくため、文学館での展示終了後には、総合博物館でも構成を変えて展示する予定です。
昨年観覧した方は、ちまちま文豪・偉人たちとの再会を、また今回初めて観覧する方は、文豪・偉人たちへの先入観が愉快に崩されていく体験を、どうぞお楽しみください。
借金して購入した本を枕に昼寝をする石川啄木
詩の原稿や絵を踏み付ける小熊秀雄。
せっかく書き上げた作品を容赦なく踏み付け、情熱を爆発させることも珍しくなかったそうです
大量の本に囲まれる伊藤整。手に持っているメモには、拡大鏡が必要なほど小さな文字が並んでいます