おたる文学散歩 第30話

公開日 2020年10月22日

更新日 2021年01月14日

第30話 山と芸術 故一原有徳さんをしのんで(広報おたる平成23年3月号掲載)

 

 昨年10月、100歳で亡くなった一原有徳さんは、現代版画家、俳句作家として国内外で高い評価を受ける一方、優れた登山家でもありました。一原さんの版画作品集や俳句作品集は幾つもありますが、最も多いのが登山に関する著作であったことはあまり知られていません。


 20代前後から登山を始めた一原さんが道内の登山家に知られるようになったのは、ロッククライミングを楽しむ最適の場として、小樽赤岩山を系統立てて紹介していったことに始まります。昭和22年に登山仲間と小樽山岳会を作り、その後『赤岩山』を作成。これは、ガリ版で刷られたわずか26ページの冊子でしたが、赤岩山の本格的なガイドブックとして大変評判となりました。


 公務員であった一原さんは、限られた休日を効率的に使うため、さまざまな登山ルートの研究に努め、そして自ら実践していきます。その成果の一つを昭和35年に出版された『北海道の山』(山と渓谷社)に見ることができます。全国各地の登山ガイドシリーズの一つとして執筆されたこの本は、徹底して社会人登山家の立場から書かれ、自筆のスケッチやルート図をふんだんに挿入。「赤岩山の岩場」の項では、実に30ページを割くなど極めて個性的なガイドブックとなり、北海道の山を全国的に注目させ、登山家一原有徳の名を知らしめた名著となりました。


 自身は、最後まで北海道の山にこだわり続けました。石狩平野以南の道内1000メートル以上の山を全て登頂するという目標を立て、半世紀以上をかけてほぼ成し遂げています。その間、登山中の大けが、大病を乗り越え、90歳に至るまで精力的に山行を続けました。


 一原さんにとって登山は、版画や俳句と別のことではなく、一つの創作と考えていたようです。彼を知る登山仲間たちは、その強靱(きょうじん)な体力と周到な準備、そして緻密な計算に驚かされたといいます。目に見えない小さな頂をも読み取るといわれた地形図の読解力。初めて見る山の写真が逆向きであることを指摘する卓越した観察力。彼にとってこれらの視点は、美術、文学と共通するものであったのでしょう。


 「一人で登ったときに見た頂稜(ちょうりょう)の氷雪の輝きは、到底絵画表現では難しい」としながらも、「(そうした)自然美より人工美にひかれる」と語った一原さん。あらゆる創作において、偉大な先人が踏んだ頂点を極められなくとも、その峰にたどり着きたいという創造力と探求心は、100歳の生涯を閉じるまで決して尽きることはありませんでした。

 

 

赤岩山の岩場を登る一原さん

 赤岩山の岩場を登る一原さん。少年期には探検家になることを夢見ていた(昭和11年撮影) 

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