おたる文学散歩 第35話

公開日 2020年10月22日

更新日 2021年01月14日

第35話 伊藤整文学賞の歩み(広報おたる平成26年6月号掲載)

 

 小樽出身の文学者、伊藤整の名を冠した伊藤整文学賞は、平成2年に創設され、同年6月16日に第1回贈呈式が行われました。
 伊藤整は明治38(1905)年、北海道松前郡に生まれ、翌明治39年塩谷に移住します。塩谷尋常小学校から庁立小樽中学校(現小樽潮陵高校)に進学、その後は1学年上に小林多喜二も在校していた小樽高等商業学校(現小樽商科大学)で学びました。
 卒業後は、小樽市中学校(現長橋中学校)の英語教諭を務めながら、書きためていた詩をまとめた詩集『雪明りの路』を大正15(1926)年に自費出版。昭和3(1928)年に上京すると、小説、翻訳、評論などさまざまな分野で活躍を始めます。昭和40年からは日本近代文学館理事長を務めたほか、昭和42年には長年の業績により日本芸術院賞を受賞し、翌43年には日本芸術院会員に選ばれました。しかし、昭和44年11月15日、胃がんにより64歳で死去。翌年5月には塩谷に伊藤整文学碑が建立されました。

 

伊藤整 

晩年の伊藤整(昭和40年代ごろ)


 伊藤整文学賞は没後20年を機に、文学者伊藤整の業績を長く顕彰するとともに、日本の文化の発展に寄与することを目的として創設されました。
 受賞作品は、前年度に刊行された小説および評論の中から最も優れたものが選ばれ、正賞として小樽市出身の彫刻家斎藤吉郎氏制作によるブロンズ像「カモメ呼ぶ少女」、副賞として賞金100万円が贈られることとなりました。
 第1回の審査委員長は作家井上靖氏が務めたほか、八木義徳、安岡章太郎、黒井千次、大庭みな子、菅野昭正、高橋英夫の各氏が選考に当たり、栄えある第1回受賞作として、大江健三郎氏の小説『人生の親戚』と秋山駿氏の評論『人生の検証』が選ばれました。以後、小説と評論の2部門から作品が選ばれ、昨年の第24回までに小説25点、評論21点に賞が贈られてきました。

 

第1回贈呈式 

記念すべき第1回授賞式(平成2年6月16日、秋山駿氏(右)と大江健三郎氏の代理で出席されたゆかり夫人(左))


 全国に数ある文学賞の中でも、小説と評論のそれぞれに目が配られている賞は少なく、多岐にわたる分野で優れた業績を上げた文学者である伊藤整の名を冠した賞にふさわしい選定であると高く評価されています。
 地方からの発信でありながら、全国的に権威ある文学賞として認められ、長年にわたって続けられてきたこの賞も、財源確保の困難や賞の運営を担ってきた皆さんの高齢化などにより、今年度をもってその幕を閉じることとなりました。

 

講演会 

受賞者による記念講演会も開催されていました(平成14年6月14日、第11回受賞者川上弘美氏による講演『本を読むということ』)

 

 締めくくりとなる第25回の受賞者は、5月8日に行われた選考会で、小説部門が佐伯一麦(かずみ)氏の『渡良瀬』、評論部門が黒川創(そう)氏の『国境〔完全版〕』に決定。6月13日(金)にグランドパーク小樽で贈呈式が開催されます。また、文学館では6月13日(金)から7月27日(日)まで企画展「伊藤整文学賞の歩み展」を開催します。全受賞作品と作家のプロフィル、関係者のメッセージなどにより賞の歩みを振り返り、その功績を紹介します。

 

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