公開日 2020年10月15日
更新日 2025年04月28日
旧日本郵船株式会社小樽支店 保存修理工事について
以下は、令和2年から令和7年にかけ実施した、旧日本郵船株式会社小樽支店の保存修理工事に関する記録です。
建物の見学・開館情報などについては、旧日本郵船株式会社小樽支店(0134-22-3316)にお問合せいただくか、公開再開に関するページを御覧ください。
保存修理工事の概要
重要文化財旧日本郵船株式会社小樽支店は昭和44年3月に国の重要文化財指定を受け、昭和59年から62年に保存修理工事が行われましたが、この工事から30年以上が経過し、外観・内観ともに老朽化しているため、令和2年7月より大規模な保存修理工事を行いました。
保存修理工事は、建物に仮設の素屋根(覆屋)をかけ、本館の耐震補強、外壁の修理、内部漆喰壁の補修、屋根葺替え、小屋組の修理、建具の塗装・調整、壁紙の修理などを行いました。
【保存修理工事期間】
令和2年7月から令和7年1月まで
【休館期間】
令和30年11月4日から令和7年4月24日まで
保存修理工事 進捗状況
令和2年度 保存修理工事概要
1 令和2年7月7日 阿部・福島・西條共同企業体と保存修理工事契約、公益財団法人文化財建造物保存技術協会と工事監理契約を締結しました。

2 外部足場・素屋根(覆屋)とガードレールの設置
工事着工にあたり、工事の安全性、雨天時や冬期間の作業性を確保するため、本館及び石塀周囲に外部足場・素屋根を設置しました。また、正面側の外部足場・素屋根設置に関わり、通行人の安全確保等のためのガードレール設置と道路占有のための白線引き換えを行い、工事環境の整備充実と通行人の安全確保に努めています。

3 内部の養生
内部の養生は、基本的にパンチカーペットを敷き、工事中の通行頻度が多い階段の踊場・踏面などには下地に合板を敷設しました。

4 外部足場・素屋根の設置に関わる敷石撤去
外部足場・素屋根を設置することと、石塀の補強工事にあたり建物北側通路の敷石を一旦解体しています。解体の際には敷石1枚1枚に番号をつけ、据付の際に同じ位置に戻すことができるように施工しています。

5 屋根の解体工事
本工事では耐震補強工事や屋根葺替え工事に先立って、屋根の解体工事を行っています。
令和3年度 保存修理工事概要
6 石積みの耐震補強
石積みの変形を防ぐため、壁頂部から垂直に引張材(アラミドケーブル)を挿入し、耐力を向上させました。施工の概要は以下のとおりです。
[写真1] アラミドケーブル孔の穴あけ [写真2]アラミドケーブル挿入
[写真3] モルタルの充填 [写真4] 定着金物でアラミドケーブルを固定
7 外壁石材の擬石補修

[写真13] 屋根の骨組みに設置した鉄骨 [写真14] 鉄骨と受け金物の接続状況
[写真15] 補強完了後の状況
10 煙突の耐震補強
煙突の耐震補強は屋根の骨組みと煙突をしっかりと繋ぎ合わせ、石積みの補強と同様に煙突頂部からアラミドケーブル孔をあけた後、垂直に引張材(アラミドケーブル)を挿入して補強しました。
[写真16] 屋根の骨組みと煙突の固定 [写真17] 煙突頂部からのアラミド孔の穴あけ
11 本屋根・腰屋根の解体
屋根材の鉄板葺きは全体的にサビ等の劣化が進行しており、小屋裏からは随所に雨漏り跡が確認されています。また、屋根端部の内樋(うちどい)や軒先の飾りも著しく傷んでおり、各所に穴が開いた状態で雨漏りが顕著な状況です。※屋根工事は令和4年度も継続して実施しています。
[写真19] 修理前の屋根状況 [写真20] 鉄板葺きの解体状況
令和2・3年度保存修理工事の紹介動画について
令和2・3年度の保存修理工事の内容(概要)を動画でご覧いただけます。
令和4年度 保存修理工事概要
12 屋根の張り替え
本屋根は経年劣化で内部の小屋裏まで雨漏りしている状態であったため、これまでの屋根(亜鉛鉄板葺き)は解体し、新たな屋根材の内側に防水シートを敷いた上で錆びにくく耐久性に優れたガルバリウム鋼板に張替えました。
[写真21] 本屋根の解体状況 [写真22] 防水シートの設置状況
[写真23] 屋根の張替え状況
13 軒先の修理・補強
屋根の先端部分にあたる軒先は、雨水などを排出する軒樋などが積雪を停滞させる原因になっており、軒先の下に取り付けられている飾り板金の劣化にもつながっていました。また、こうした軒先の劣化が建物内へのすが漏りの原因にもなっていたため、軒先の板金や板金を支える下地の木材は再利用が可能なものを除き、すべて新たなもので更新しました。
[写真24] 屋根軒先の板金解体状況 [写真25] 屋根軒先の下地木材解体状況
[写真26] 屋根軒先板金の更新状況
14 屋根飾り柵の補修
本屋根の先端部に設置されている飾り柵は屋根に固定する控え金物とともに塗装がはがれ、折れ曲がっている状態であったため、一旦すべてを取り外して補修・塗装し、控え金物は屋根に貫通ボルトで直接固定していましたが、今後の雨仕舞を考慮して、屋根に直接穴をあけない固定方法で復旧しました。
[写真27] 飾り柵補修状況 [写真28] 補修後の再取付状況
[写真29] 飾り柵の再取付完了状況
15 竪樋の補修
外壁に設置されている屋根軒先から雨水等を排水する竪樋(配管)は、長年の使用によって落ち葉や土砂などの不純物が詰まっており、排水の機能を果たしていない状態であったため、一旦取り外して、竪樋の補修や内部の不純物の除去を行った上で再設置しました。
[写真30] 竪樋の撤去状況 [写真31] 補修・防錆・塗装状況
[写真32] 竪樋の再取付状況
令和4年度の保存修理工事紹介動画について
令和4年度の保存修理工事の内容(概要)を動画でご覧いただけます。
令和5年度 保存修理工事概要
準備中
令和6年度 保存修理工事概要
準備中
重要文化財旧日本郵船株式会社小樽支店の概要
重要文化財旧日本郵船株式会社小樽支店は明治37年着工、同39年10月に落成した近世ヨーロッパ復興様式の石造2階建建築です。設計者は佐立七次郎、施工は地元の大工棟梁山口岩吉があたり、工費は当時の金額で約6万円でした。当時小樽は北海道開拓の拠点都市として商業港湾機能を充実しつつあり、船舶・海運・倉庫業界が競って、船入澗を設置し石造倉庫を建てました。また明治後半から一流建築家達が当時の最先端の技術で、代表的作品を残しました。この建物はその草創期の象徴的存在です。
昭和30年、市が日本郵船から譲り受け、翌31年から小樽市博物館として再利用されて来ましたが、昭和44年3月には、明治後期の代表的石造建築として国の重要文化財に指定されました。
しかし、年ごとに老朽化が目立って来たため、昭和59年10月修復工事を着工、33カ月の工期を経て62年6月に竣工しました。ここに商都小樽を代表する明治後期の商業建築が優れた文化遺産としてよみがえりました。
建物は表玄関を中心に左右対称、北面に貴賓用横玄関を配し、背面両翼に張り出すコの字型平面をとっています。外壁には小樽天狗山・奥沢産軟石、腰・胴蛇腹・軒部分は登別産中硬石を使用、内部は事務所としての機能性と、大理石敷き横玄関、繊細な木彫の大階段手すり、美しく精緻な中心飾り等格調高い装飾が調和し、商業建築として、設計者の周到な計画と配慮が見られます。また、米国製のスチールシャッター、建具金物類を用い、暖房は地下にボイラー室を設け蒸気暖房とし、窓はすべて二重ガラスで北国の冬を考慮した当時としては最新式の設備を備えていました。
2階貴賓室は寄木造りの床、空色漆喰の天井、菊紋内摺セードシャンデリア、菊模様の金唐革紙(※)の壁、絨鍛、鏡付大理石暖炉等で彩られ、家具調度類の配置、また色彩的にも往時の雰囲気がよく伝わってくる贅を尽した華麗な空間です。隣りの会議室は約182平方メートルと広く、天井の大胆な弧を描く蛇腹の彫刻と精緻な中心飾り、シャンデリアの光を反射するアカンサス模様の金唐革紙、床を覆う絨鍛、大テーブルと36個の椅子が悠然として迫力ある空間を感じさせます。
※金唐革紙(きんからかわかみ)
江戸時代にオランダ貿易で欧州から輸入した革製品をヒントに和紙で製造した革に似せた紙。はじめはタバコ入れとか小物を作っていましたが、明治初期から大蔵省印刷局で壁紙を作り、欧米へ輸出するようになりました。
1階は客溜りと営業室が高いカウンターで仕切られており、力強い格天井と色鮮やかな天井紙等が海運業の隆盛を象徴しています。細部仕様まで復元された照明器具の高さ、机・椅子類の配置が執務状況を実感させ、豪壮な造りの金庫室や支店長室、応接室などとも機能的に調和がとれています。渡り廊下でつなぐ瓦葺附属舎には球戯室、倶楽部、看貫場(計量室)などが配置され、当時の特徴的な仕様と景観が見られます。
設計者 佐立七次郎(1856~1922)
安政3年讃岐藩士の家に生まれる。工部大学校造家学科(現東大工学部)の第一期生。同期は辰野金吾(日本銀行旧小樽支店・東京駅設計)、片山東熊(迎賓館設計)、曽禰達蔵(旧三井銀行小樽支店設計)の3人がいる。卒業後、工部省、海軍省、逓信省を経て、明治30年頃より日本郵船の建築顧問となる。現存する作品としては日本水準原点標庫(東京憲政記念庭園内)がある。