公開日 2020年10月27日
更新日 2021年01月15日
国道五号の朝里十字街から海へと向かう道は、海岸のがけの手前で右に折れ、朝里駅へ下りていきます。このとき、左手に海岸へ下りる細い坂道があることに気が付きます。これが「いなりの坂」です。この坂は、途中から階段となり、函館本線の線路沿いの道に至ります。
坂の名は、昔、この坂の上の曲がり角に稲荷神社があったことに由来します。稲荷神社は、大正の初めに新光2丁目の朝里神社へ移転遷座したため、その由来を知る人も少なくなってしまいました。現在、神社の跡には朝里小学校町田外也(まちだそとや)校長の頌徳碑(しょうとくひ)が建っています。
かつてこの坂の辺りは、小樽市と合併する前の朝里村の役場や郵便局、漁協などがある村の中心でした。近辺の海岸沿いはアサリ浜中と呼ばれ、多くのニシン漁家が並んでいました。これらの漁家は、それぞれ、がけの上にある網干場と行き来のために、漁家の屋号により「ヤマキチの坂」、「タマルの坂」などと呼ばれる坂道を持っていました。このように、いなりの坂以外にもがけには多くの坂道がありました。しかし、昭和20年代にニシンの群来(くき)が去ると、多くの坂道は、その役割を終え、近年行われた急傾斜地工事により姿を消しました。その中で、生活道路の性格の強いいなりの坂だけは残り、今なお、海岸への近道として地域の人々に使われているのです。
夜来の雪がやんだ冬の朝、いなりの坂を訪れると、日本海が雲間の日差しを受けて鈍く輝くのが見えます。坂道は、ほうきで掃いたようにきれいに雪はねされていて、すがすがしい気持ちを覚えます。近所の人々が、誰がということなく、雪をはねているのです。
取材協力:朝里郷土史資料調査研究所
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