公開日 2020年10月27日
更新日 2022年02月16日
小樽に坂は一体いくつあるのでしょうか。山が海に迫るこのまちに坂は無数にあると言えます。
坂の多くには名前がありません。しかし、これら無名の坂が人々の暮らしにとって重要ではないということではなく、むしろ名前の与えられていない坂こそ、その地域に住む人々の普段の暮らしに溶け込んでいることも多いようです。
勝納川に沿って古くから開けてきた真栄にも、川に沿った山の斜面に坂道が多くあります。奥沢中央橋そばの真栄会館から山に向かって上っていく細い坂道は、通り抜け車両もほとんどなく、地域の皆さん以外にはあまり知られていない坂道といえるでしょう。
少し歩いていくと、左手にがけ地があり、道路はそのがけをかわすように右に折れ、それから真っすぐに山に向かいます。坂はやがて、地元の方がサイクリング道路と呼ぶ市道に至りますが、その手前右手に、入り口に木の門柱が二本並んでいる小さな境内があるのに気が付 きます。
百坪ほどの敷地の入り口には、「一尊」と彫られた小さな丸い石碑と、お地蔵様が建っています。お地蔵様は腕に幼子を抱き、その足元にはすがりつく二人の子どもの姿が彫られています。境内の奥には、無人のお堂が建っています。この境内には、かつて、このお堂のほかにも一尊庵(いっそんあん)と呼ばれた小さな尼寺が建っていました。
50年ほど前からご近所にお住まいの方によると、その当時、すでに尼僧は世を去っており、その後は男僧が庵(いおり)を守っていたそうです。また、この一尊庵では、昭和40年ごろまで毎年6月にお祭りが開かれ、毎月24日には、近所の方がお講を開いていたということです。しかし、その後、一尊庵は無人となったため、10年ほど前に解体されました。
今では訪れる人もない境内には、サクラやイチイなどの木々が枝を広げており、寂しい雰囲気です。しかし、ご近所の方がお参りするのか、お地蔵様にはお菓子やおさいせんが常に供えられており、地域の皆さんとのかかわりが伝わってきます。